No.09

STAGE

元理系男子の舞台と花火と脚本戦記

迅速果断vol.2

役者目線で考えた場合、舞台と映像では演技の見せ方が違ったり、映像の場合は撮影する順番が必ずしも台本通りではなかったり、と、ある種、演技・役作りなど別物と考えたりするのだが、一番大きな違いは、舞台は一度幕が上がってしまうと、どんなトラブルが起ころうと、お客様の安全を脅かす事がない限り止める事は出来ない、というところだろう。
という書き始めは以前にもしたのだが、(第3回コラム 迅速果断 vol.1参照)今回は、vol.2という事で、実際に舞台を途中で止めた、という話をしようと思う。
舞台に関わった事のある、という方は周りにも沢山いらっしゃると思うが、舞台を途中で止めた事がある、という方はほとんどいないだろうと思う。
そんな稀有な体験を私は二度している。

今日はそんな一度目の話なのだが、
丁度2年前、日中友好公演と銘打たれ、東京の天空劇場で8ステージという私のキャリアの中でも最も大きい公演の時だ。

武術太極拳×和太鼓×演劇×ダンス×ROCKという事で、武術太極拳の世界選手権メダリスト達と、役者、ダンサーが入り混じり、1592年、1597年の文禄・慶長の役時代、石川五右衛門と茶々、そして秀吉の命を狙う明の刺客を軸にした愛とROCKに満ち溢れた作品だったのだが、その舞台では紗幕という、通常映像を映すだけの幕とは違って、目が粗く作られた幕を使用していた。紗幕を下げた状態で、舞台上に照明を入れると、客席からは幻想的に見える効果という効果も出す事が出来る。
間口(幅)8間(1間はおよそ1.8メートル)、高さ12メートルの紗幕を特注し、芝居中に揚げたり、下げたりするのだが、6ステージ目の、とある前半のシーンで、紗幕が半分揚がった状態で止まってしまったのである。
さて、どうしたものか、と客席後方にある調光室(音響・照明のオペ室)で考えていると、舞台袖にいた舞台監督さんが走ってきて、紗幕を揚げる仕掛けに故障があるのか、どうやっても揚がらない、一度、キャット(舞台の上にある作業用の細い回廊)に登って見てきます、と。
長らく共に舞台を創ってきた最も信頼している舞台監督さんすら、少し動揺していたのだが、舞台上では出演者さんたちが、取り乱すこともなく、これがまるで演出であるかのように芝居を続けていた。
紗幕のトラブルなので、お客様に危険の及ぶことは限りなくゼロで、お芝居的にも、このままいけない事もないのだが、やはりお客さんにはストレスになるだろうし、この後のシーンを考えでも、止めるなら今だなと。ただ、止めるという経験もなく、ただでさえ大きな公演であるので、並大抵の覚悟では厳しいなと考えたりもしていたところに、舞台監督さんがキャットから降りて来た。

10分あれば揚げ切ることは出来そうです。ただ、再び、紗幕を降ろすのは不可能になりますが。とのこと。

少し目を瞑って考え、
『一旦、お芝居を止めて、紗幕を揚げよう。』と、無意識に私は発していた。

そこから、私はプロデューサーさんを説得し、お客様から払い戻しの要望があれば、チケット代を払い戻してほしいとお願いし、そして舞台袖に走った。出演者さん達に、これでは私たちの稽古してきたクオリティを届ける事できないし、お客様にも素直に素直に謝罪して、払い戻し覚悟で、止める旨を伝えた。
武術太極拳、役者、ダンサーと普段別々で活動しているいろいろなジャンルのメンバー達ではあったのだが、この時のみんなの顔は一生忘れないだろう。誰一人、取り乱すこともなく、トラブルを責めるでもなく、全員、引き締まった良い顔をしていた。
それどころか、このまま芝居を続けるという判断を私が下しても、お客さんのストレスを少しでも減らすよう、芝居の位置の変更などを役者間で打ち合わせていたようだった。
舞台袖でそんな話が行われている時も、舞台では芝居は続いている。
私は急ぎ、この後のシーンの町人たちが出るシーンで、私が町人に扮して、芝居をしながら舞台を止めるという案を伝え、紗幕を揚げる10分間、特別なパフォーマンスを見せようとする段取りを伝えた。役者さん達には和太鼓を出せるよう用意してもらい、武術太極拳のメンバーやダンサーさん達にはアドリブで和太鼓に合わせた演武やダンスを踊れるか?と打診した。
『やります!!!!やらせてください!!!』
みんな晴れやかな顔をしていた。ここまでで、私が止める決断をしてから、5分足らず。

私は町人に扮し、初めて、芝居を途中で止めた。
『実は、この幕、揚がりも下がりもしなくなっちゃいましてね~。』
たしか、そんなセリフから発したように記憶している、とにもかくにもお客さんは沸いてくれた。お客さんもこの紗幕がトラブルだと気付いていたからだろう。
『これからの10分間は武術太極拳メダリスト13人と和太鼓による、特別パフォーマンスです!!!この10分は写真撮影もオッケーだよ!!』
鳴り響く和太鼓、次々に音に合わせて演舞していくメダリスト達。
お客さんも大盛り上がりで、そのボルテージが最高潮に達した、最後のメダリストの演武が終わった瞬間、狙ったように紗幕が揚がっていった。
万雷の拍手が起こっていたのを覚えている。

それから芝居が再開され、私は役者さんたちのお芝居に圧倒された。稽古でも見た事のないくらいの熱量とパフォーマンス。
私はこの出演者達を心から誇りに思ったし、心底リスペクトしている。なかなか、出来る事ではない。

カーテンコールで謝罪と払い戻しの説明をしたのだが、お客さんも含め、全員が笑顔だった。
勿論、全て良しという事ではない。反省すべきだったし、実際にあの後、反省や対策等、多くの事を話し合った。人為的な事ではないとはいえ、二度と起こらないように努力しなければならない。

だが、あの時の出演者、お客さんが創りあげた舞台は、ある意味、今後超えられないかもしれないと思っている。

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